東芝がWDと最終協議へ
経営再建中で何かと話題の東芝が、ついに半導体事業を担う子会社の「東芝メモリー」を売却するに至りそうです。
売却先は、かねてより協議を進めてきた、協業先であるアメリカの大手半導体企業「ウエスタン・デジタル(WD)」となりそうで、合意へ向けた最終調整に入ったと言われています。
東芝の経営再建、特に半導体部門の売却には当初より多くの注目が集まっていました。
当初、東芝は、アメリカ系ヘッジファンドの「べイン・キャピタル」に韓国の「SKハイニックス」、政府系ファンドの「産業革新機構」「日本政策投資銀行」を加えた「日米韓連合」を優先交渉先に選定していましたが、それに反発したWDがアメリカ系ヘッジファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と連合を組み、さらにそれに反発した「日米韓連合」にアメリカのアップル(Apple Inc.)が参画したりと、数多くのプレイヤーが登場し、事態は二転三転しました。
最終的には、優先交渉先を切り替える結果となりましたが、今回注目をしたいのは、「最終的な東芝の判断」や「今後の展望」ではなく、この「売却劇」に登場した「コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)」です。
東芝のような事例では、
「結局今後株価は上がるのか?」
「投資した方がよいのか?」
などと”今後の”利益に目が向いてしまいがち(もちろんそれも重要)ですが、ケースを振り返って検証することで、理解を深めることも重要です。
今回の売却撃破、世界最高峰の専門家たちが協議してきた結果の現れであり彼らが「どのように考えて」「何のために動いているのか」を知れるいい機会です。しっかりと勉強していきましょう。
世界有数のバイアウトファンドKKR
今回の売却劇に登場した、KKRというファンドをご存知でしょうか?
KKR(Kohlberg Kravis Roberts,コールバーグ・クラビス・ロバーツ)は、アメリカのニューヨークを拠点にする世界最大規模のバイアウト・ファンドです。
機関投資家などから調達した資金を元に未公開株を取得しその企業の負債の整理や事業の改善「プライベート・エクイティ」であり、LBO(Leveraged Buyout, レバレッジド・バイアウト)を最も得意としています。
ブラックストーン・グループ、カーライル・グループと並んで、「世界3大プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)」と呼ばれており、売上は年間2,000億ドル(20兆円)以上にも及びます。
なぜ東芝はWD(KKR)に乗り換えたのか?
では、なぜ東芝がKKR率いる「新日米連合」への売却に切り替えたのか考えてみましょう。
実はKKRは、あの有名な小説で「ハゲタカファンド」のモデルになったことでも有名です。
経営が傾いている企業を買収し、赤字事業などを容赦無く切り捨て、利益を追求する様子が描写され、その冷徹さや企業との対立などはドラマとしても非常に興味深いものでした。
確かに、冷徹に利益を追求するといった側面もあるのかもしれません。
ですが、それは安易に「企業と対立する悪者」とイメージしてよいものではありません。
今回の東芝の例で考えてみましょう。
なぜ東芝はWDへの売却に決めたのでしょうか? KKRのハゲタカ的な圧力に屈したのでしょうか?
東芝の立場に立って考えてみれば答えは明らかです。
今回の決断は、それが「最も東芝の利益になる」結果だったのだとわかります。
東芝の立場で考えれば、KKRなど周りの企業がどの程度利益を得るのかは、極論関係がありません。
以下の2つのケースを考えてみてください。
① みんなで100億儲かる。東芝の利益は50億(全体の50%)、WDなどその他の利益は50億
② みんなで1000億儲かる。東芝の利益は100億(全体の10%)、WDなどその他の利益は900億
②のケースでは利益の90%を周りの組織に持っていかれてしまっています。
ですが、このケースでは②の選択が東芝にとって優れています。手に入る利益が50億と100億なのですから、迷う余地はありません。
今回のケースでは「トータルで」見たときにWDに売却する方が東芝にとって有益だったのだと想像できます。
もちろん、先ほどの①,②のケースのように「〇〇円!」といったような簡単なものではないでしょう。
様々な利権が複雑に絡まり、今すぐ手に入る利益から、将来の収益まで、その見積もりは簡単ではありません。
ですが、トータルで考えたときに東芝にとっての利益が大きかったのが、今回の選択なのだと想像できます。
おそらくですが、「日米韓連合」との協議が難航しているのに対し、スピーディに話が進んだこともメリットの一つだったと考えられます。
ダラダラと協議している間にも、損失は膨らみ、その「協議自体」にもコストが発生するのですから、スピーディに決断できることは非常に重要なことです。
結局は、買収先の企業にとってより大きな利益を提供できないようでは、自分たちも収益を上げられないのがファンドです。
自分たちの利益だけを追求して、周りを鑑みないような戦略で上手くいくわけもありません。
今回は、具体的な買収額等についての言及はしませんでしたが、改めてこの視点を持って、今回の一連の騒動を分析してみてはいかがでしょうか?
大きな騒動ではありましたが、私たちが投資について考えるヒントがきっと見つかるはずです。